ぼくの考えた最強図書館

武雄市×CCCの図書館論争が面白い方向に伸展するかと期待したが先陣のひろみちゅ先生の件が世間的にあまり面白くない形で収束をしてしまったため、その他でも全国的な議論まで発展しなかった。そこで、どの図書館がどうとかいう個別事案は置いておいて、こんな図書館があれば面白いなという事だけをひたすら書いてみることにした。ぼくは実務家ではないのでタダの理想をいいっぱなすだけなのである。



  • 5000人あたりに一館の図書館
  • 無人による24時間開架
  • オンラインでの貸出と貸出物デリバリー
  • その地域で見れるテレビやラジオをデジタルアーカイブ
  • 一般の人が撮影した写真を集積アルバム化
  • パソコンやタブレット端末の貸出
  • 貸出予約や延滞には別途利用金を設定する
  • 漫画や電子書籍、人間も貸出す
  • 書籍は古本からも調達し、図書館といえど著作権料を支払う
  • 図書館を中心としたWAN(Wide Area Network)、キャッシュサーバー群

図書館の淵源

図書館を無料で利用できるただの貸本屋ととらえる日本人は多いが、図書館はなんのためにあるか?なぜ行政サービスとして無料で書籍を貸し出ししたりしなければならないのかを考えてみてほしい。


図書館は国民の知る権利を淵源にしている。((淵源(えんげん)とは、根拠とかいう意味らしい。樋渡市長がつかってたので覚えた。政策をセサクとかいいっちゃう官僚言葉なのかな? たぶんこういう時にしかつかわないので思い切ってつかう。))
「思想・良心の自由」のためにはそもそも情報が恣意的に制限された状態や提供される情報が誤った状態では判断ができないし、結果として判断を誤ることがある。そのために国民は知る権利がある。さらに「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」知るために、そして文化的な生活をするために図書館は存在しているわけだ。


さて、知る権利や最低限文化的な暮らしというものと図書館のあるべき姿というものは一致するだろうか?いまは一致するとして、将来、10年後は?50年後は?
例えば、このブログにまでたどり着くであろう諸子には賛同していただけるであろうが、10年後にインターネットなどの情報網に繋がらない生活があたとして、それは果たして最低限文化的であるといえるだろうか?特定の物事などについて的確に判断すべく網羅的に情報を手に入れることができていると言えるだろうか?
過去において出版情報を利用できないひととできる人のアクセスできる情報量には隔世の差があった。だからそこを埋めるために図書館というものが必要だった。では将来、ネットにアクセスできない状態にある人と、できる人の情報量の差は、現在の図書情報にアクセス権があるかないか以上に差がつくものになるのは容易に想像しえる事態だ。


図書館のありかたはいまのままでよいのだろうか?情報革命が本格化したこの10年、これからの10年、まさに問われる人類の未来だ。図書館が本来の義を果たすためには、運営形態はこのままでよいわけはない。そういう議論がひろがればと思う。


施設および運営

図書館 地域人口2万人あたり1件
連携図書室 地域人口5000人あたり1件(コミュニティセンターなど)
交流施設、学習施設の併設と連携
開館時間 月曜日〜金曜日/10:00〜22:00 土曜日/10:00〜19:00 日曜・祝日/10:00〜17:00
貸出時間 24時間365日
返却ポストを駅などの人口集積地にも配置
ユビキタス環境整備:無線 LAN スポット・公衆利用パソコン
人事評価システム:行政評価システムを導入する
貸出評価システム:貸出数評価、リファレンス、ユーザー投票
防犯対策:防犯カメラ、館内警備巡回、立ち寄り
災害対策:ディザスターリカバ、防火防災対策をすると供に地域防災の規範となるべく、行われている対策をリスト化、閲覧公開する。

上記は具体的に実現可能な範囲での理想である。
運営時間については主に千代田区立日比谷図書文化館を参考にした。地域人口5000人あたり1件の図書室は三鷹市武蔵野市ではすでに実現的な数字だ。図書館同士の書籍連携がさらに充実すれば開架図書数によらぬ図書館の定義ができるのではないかと思う。そうすれば住民5000人に対して”図書館機能”を持つ施設を1つというのは現実的な目標になる。

公共施設のユビキタス環境整備は実際三鷹ですでにおこなわれている施策である。同市の図書館では2009年より無線ICタグによる管理で貸出や返却を自動化している。読み取りリーダーの上に本を積み重ねた状態で置けば一度の読み込みで貸出が完了する仕組みだ。
無人コンビニエンスという試験的な取り組みがあったが、そのような完全自動化による運営コストのかかるものではなく、RFID(Radio Frequency ID)やNFC(Near Field Communication)のような技術を用いて運用すれば、貸出事務手続きのような本来目的以外の部分は無人化、もしくは簡略化ができるのではないかという期待だ。アマゾンの巨大倉庫が無人化を目指すのだから、図書館だって10年後にはできるところがでてきてもおかしくないよね。画像解析による棚卸や人物認証、不審者検出、建物内GPS準天頂衛星初号機「みちびき」)などによる基礎ICT技術向上により図書館の業務は大きくかわることだろう。


無人による24時間開架は図書館にとっては大義ではない。24時間営業するぐらいの利用需要があり、無人でも営業して問題がおきないためには治安もよく、福祉も充実していなくてはならない。無人でも問題がおきないような街ならばぜひ住みたいよね。図書館無人という最劣後課題をクリアしているということは、それまでの課題をクリアしていることになる。ならば、それは街として、結果としてとんでもなく成功を果たしている証拠だ。


付属サービスについて

図書館は利用者から料金を徴収してはいけないという法律があるんだとかなんだとか。なんとも馬鹿らしい。時代にそぐわないので法律を再検討すべきだ。もちろんすべての利用について金を取れというわけではないが、本来目的以外の部分については有料サービスがあってもよい。


海外ではこんなところでお金をとっているサービスがあるという例をあげていこう。スウェーデンでは貸出冊数に制限がないかわりに予約するのが有料だ。宅配もしてくれるサービスもあるそうだ。英国では、延滞するとかなり高い罰金が課せられる。米国では古本の販売やギフトショップ、カフェ、オンライン書店との提携などその有料サービスは豊富だ。日本では武雄×CCCが目指している図書館での雑誌や文具などの販売、カフェの併設を検討しているが、それに先駆けて千代田区×小学館集英社千代田区立日比谷図書文化館にておこなっている。


図書館で働いているひとの談によると、プレゼント応募のために雑誌を切りとってしまうような部分的毀損や書籍の盗難などが我々利用者が思う以上に多いという。救急車の有料化で議論されるように、受益者負担の原則に沿い、数%の過剰な、もしくは目的外利用のためにその他大勢の人達がそこで発生した費用を負担するような事態は避けなければならない。
公共財として効率的に機能するために、付属のサービスについては、民業を圧迫しない範囲で有料も選択肢として持つのが自然だ。利用者が増えると財政の負担が増えるからという後ろ向きな理由で、利用の範囲を狭め利便性を損なうようでは本末転倒。利便性をあげる努力を財源の確保の問題だけにすり替えてはならない。


体が不自由で知る権利を行使できない人のために、訪問介護などのサービス業者が利用者になりかわり図書を借り入れたり、忙しく図書館があいている時間に利用ができない勤め人の代わりに、宅配クリーニング業者が本を借りておいてくれる付与サービスがあってもいいではないか。金をとるために権謀術数、あらゆる悪策鬼略を巡らせろという話しではない。金がないことをいいわけに、かつ利用者からも業者からも金を取らず利便性の向上も図らぬのなら、図書館が存在するための目的を果たしていないのではないか。有れば売れるという商売が終わったように、在ればいいというハコモノ行政の時代も終わりだ。


武蔵野市ではチャリティブックリサイクルという、事業で払い下げの書籍のチャリティオークションというのがあるようだ。取り組み自体は日本においては意欲的で賞賛すべきものだが、年間458冊売って、3万7千円とか、2000冊さばいて、募金額が2万5千円とか、搬入の人件費にもならねぇじゃねぇかみたいな縮小再生産をやられるといったいどうなのよと思う。調達金額を考えれば特別損失の領域だ。そのままブックオフにもってけとか、Amazonに出品しろという感じである。米国では88%もの図書館が実施している古書の販売が日本では先進都市に名を連ねる武蔵野市レベルでこの有様ではちょっとめまいがする。


調達、支払いについて

海外と比較すると、お金を払っている部分についても違いがあるようだ。図書の買い付けは古書も可能とされている国がある。そして、英国、フィンランドスウェーデンでは図書館での貸出に起因する著作者の印税損失がおこなわれている。(2003年にフランスでも法案提出がされたとの報がある)


図書館での貸出について著作権が支払われる。これには私も正直驚いた。
著作者権利については、日本と英米で大きな違いがあることが、音楽著作権などにおいても既知の事実だ。地方のラジオ局までモニタしていつどこでどの楽曲がかかったというような報告まで著作者にしてくれる米国音楽著作権協会に対して、日本はご存知の通りだ。書籍についてもそうね、概ねご存知の通りだ・・・。


日本の図書館で貸出書籍に対する印税補填を考えた場合、音楽著作権よろしく包括的契約とかいう本来価値を無視した形骸化したものになる危険性がある。管理団体なのに実質管理してないというようなことはぜひとも避けたい。そのためには書籍ごとの貸出回数管理が必要なのだが、同じひとが借りたらどうなのるのだとか、実務上の懸念点は多そうだ。ぜひとも先例に学んでいただきたい。


貸し出すものと集積するものについて

図書
マンガ
報道メディア記録媒体
音声、映像メディア
外国語書籍(未翻訳資料)
タブレット端末、ノートパソコン
人間

知る権利が淵源になっている図書館で、テレビで放送された政権放送の動画のひとつも見れないのはいったいどういうことなのか?誰かこれについて筋の通った言い訳が出来る人いるかね?

テレビ番組などの公衆メディアの転載が著作権の公衆送信がうんぬんと、言い訳をするのかもしれないが、知る権利と著作権は必ずしも相反するものではないはずだ。それをやらないならば不作為ととられてもいたしかたあるまい。図書館で扱われない情報が増えるに従って知る権利を満足させる情報館という本分を見失れてないか?


Googleのミッションステートメントに「世界のあらゆる情報を整理して世界中の人がアクセスできるようにすること」とあるが、地域の情報に限ってはまず地域の図書館がまずすべきことなのじゃないか?20年ほどまえにCDなどの貸出が始まったころ、驚いたものだが、そこから先がメディアが増えていない。
郷土史はなにも紙媒体だけのものではないだろう。一般の人が撮影した写真も地域の情景を伝える重要な情報として集めるべきだし、それらを集積し、デジタル化、整理してアクセスできる状態にしておくのは将来的に重要な意味を持つ。ビデオなどの動画はまだ時代的に自治体で集積するのは厳しいかもしれないが世代交代によって失われる危険がある数十年前の過去の印画紙写真などは図書館が郷土・行政資料の一環として積極集積をうたい、閉架でもよいので、集積、デジタル化しなければいけないのではないか。


先述のスウェーデンを始め、電子書籍の貸出がはじまっている国は多い。電子書籍のダウンロード数や、リクエストサービス(購買希望)、日本ではリファレンスと呼ばれるものは電子システム化されている。日本では電子政府については後進国だ。日本語を母国語に使うのは日本人しかいないわけで、世界的にみればマイノリティである日本語を世に出していくべく、メジャーな資料だけでも整理して電子化し積極公開していく姿勢は後に肝要な成果を残すのではないかと思う。


貸出の最後に人間という冗談のような項目がある。これは有識者と呼ばれる生き物を貸出してはどうだろうという提案である。この人間の貸出はスウェーデンのマルモー図書館で「Living Library」という実証実験で、同性愛者やイスラム教の導師などその地域で比較的マイノリティ層が時間で貸し出されたようだ。情報取得のためにその分野をよく知っている人物への接触が一番の近道であり、それをフォローしようという試みは面白い。知るための権利を満たすためには、交流施設、学習施設の併設も重要となろう。千代田区では講義型、ワークショップ型ができる「日比谷カレッジ」が併設され、三鷹市では亜細亜大学国際基督教大学などの近隣の大学が連携している「三鷹ネットワーク大学」がある。セカンドスクールが図書館とかならずしも同一施設内にある必要はないが、知識への接触機会の創出は地域の創発戦略として重要だ。




蔵書検索について

蔵書情報が整理されていなさすぎて岡崎市図書館事件(librahack)という悲劇がおきたり、館蔵書検索サイト「カーリル」ができてしまうぐらいだ。これは非常に残念なことだ。書籍のようなキーとバリューが明確な情報はデータベース化がもっとも容易な分野であるはずであり、その部分において検索性、閲覧性に優れたシステム、デファクトスタンダードが確立されていないということは、そのほか全体の未成熟さをも表している。残念だ。


市町村ごとの図書館蔵書システムが旧世代的なのにはいたしかたない事情もある。システムが減価償却資産として計上されているので、価値があるものとして刷新することもままならないのだ。オープンソースが導入されるまえのシステムというのは非常に高価なものであったため、各自治体ごとにおこなわれた試行錯誤の結果の些細な失敗を10年も引きずらなければならない。
望むべくは最新でピカピカのシステムだが、優先順位が低い利便性向上に投資を行うのは財政上困難であろう。不満をこぼしながら古いシステムを使うのはどうかしていると思うので、図書館に公開PC端末をおいて、アマゾンで検索できるようにしてlibronでもぶっこんでおけばいいんじゃないかと放言したい。 http://libron.net/
図書館蔵書APIとかRSS配信ぐらいはやってほしいが、そんな最低限の情報アクセス手段の提供も硬直化した図書館界隈では困難なのかもしれない。司書が本を案内できるように、それと同等の能力のあるオンラインから情報を探しだすことができる地域のICTエバンジェリストの配置、育成が急がれる。世間のリテラシーをみると今から取り組んでも10年かかりそうだ。



感想とか

自分の住む近隣の市町村についても改めて図書館計画などを読んだ。人口18万の三鷹市で本館で40万冊計65万冊、人口14万の武蔵野市で計69万冊。いずれも増冊を目指す方向であるが、電子書籍やそのほかのメディア集積についての言及はなかった。インターネット利用環境の充実が歌われているぐらいである。インターネットはもちろん重要ではあるのだが、それだけではなくローカルエリアの知識集積こそが図書館の役割で求められるものではないかと思う。ネットは距離を超えて知識とつながるための方法であるので、地域ドメインごとの情報集約ができていなければ個別消耗戦になってしまうだろう。
学校、もしくは図書館単位のネットワークセグメントの仮想化は学術テーマに収めず、実証レベルでガシガシロールしていかなきゃいかん題材だとおもう。



ずいぶん長いこと書いたがいろいろ言い足りない。他、書こうと思ったキーワードだけでも羅列しておく。

利用困難者に対する配本サービスの提供
図書館連携、隣接市町村
図書貸出システム
館同士で乗り捨て自由な自転車を貸し出す
閉架書庫
外部データベースや地域アーカイブシステム等を活用した学習活動の支援
市内文化施設や他機関との連携によるサービス提供の検討
多様な情報資料の蓄積
図書館資料の検索性の向上
空調が効いている時間の制限
ブックポストの設置促進
大学図書館等との連携
学校図書館との連携
コミュニティ・センター図書室との連携
録音図書の収集・整備
録音・点字図書→OCR、音声読み上げ
点字図書、OCR→点字ディスプレイ、点字プリンター
馬場の日本点字図書館を見学したことがあるよ
三鷹の点字印刷所の社用車?がBMWとベンツだよ( ´,_ゝ`) 


(* ´¬`)。oO(雨だったので暇。暑くなってきたので紅茶の注文もすくないし、大工仕事も進まない。図書館とかいって、お店をはじめてから月曜日が定休なので、定休の月曜日と重なってかれこれ長いこと行けてないんだけどね! 書きすぎたな。)



参考

日比谷カレッジ
http://hibiyal.jp/hibiya/college.html

三鷹ネットワーク大学
http://www.mitaka-univ.org/


図書館での貸出有料化の問題
http://current.ndl.go.jp/ca1492


千代田区立日比谷図書文化館
http://hibiyal.jp/hibiya/index.html

スウェーデンの図書館、人間の貸し出しに踏み切る
http://rate.livedoor.biz/archives/50030906.html

公立の図書館はがんばっている
http://togetter.com/li/300177

第5章 アメリカの公共図書館
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06082211/008.pdf

県立図書館、貸出数全国トップ 人口比、入館者数は7年連続
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/society/32227.html
県内の公立図書館数は37館。人口10万人当たり4・6館となり、全国で6番目に多い。


武蔵野市図書館基本計画
http://www.library.musashino.tokyo.jp/data/sakutei/kihonnkeikaku.pdf

三鷹市 平成20年度図書館事業計画
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/c_service/001/001629.html

三鷹市立南部図書館(仮称)基本プラン
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/c_pubcome/030/attached/attach_30172_1.pdf

日本点字図書館
http://www.nittento.or.jp/

三鷹の市立図書館、貸し出し・返却、自動化――職員、案内に注力。
http://www.shopbiz.jp/ic/news/24620.html

政難の状況下での公共図書館における有料サービス(米国)
http://current.ndl.go.jp/e1102

小学館集英社プロダクション、『千代田区立日比谷図書文化館』がオープン
http://www.nikkan.co.jp/newrls/rls20111018o-19.html

武蔵野市図書交流センター運営委員会会議要録
http://www.library.musashino.tokyo.jp/aizo/web-pdf/aizo-kaigi23.pdf

カーリル | 日本最大の図書館蔵書検索サイト
http://calil.jp/

岡崎市立中央図書館と相互確認したこと
http://librahack.jp/

スウェーデン国内の図書館データベースシステム LIBRIS
http://libris.kb.se/